【教えて! ドクター】
〜気になる病気を正しく知っておこう〜


ミキハウス子育て総研発行
「Happy-Note」夏号・秋号より


解説・指導 宗村 由紀先生
大分医科大学(現大分大学)医学部卒。札幌医科大学、大腸肛門病センター高野病院勤務後、平成14年大分市で夫の忠信医師とともに医療法人むねむら大腸肛門科を開業。全国に先駆け女性専用外来を開設。年間約3,000例の胃・大腸内視鏡検査、約1,000例の痔の手術をこなす一方、自らも小学生男子、女子の2人を子育て中。


夏号
『妊娠中、産後の痔』

★3人に1人は痔ぬし !

痔の代表は痔核(イボ痔:肛門の血管のかたまり)、痔瘻(あな痔:穴が開くこと)、裂肛(切れ痔)の三大疾患です。潜在的な痔主を入れると、日本人の3人に1人 "ぢ" 主と推定されており、痔がむし歯に続き「第二の国民病」と言われるゆえんです。


★痔ぬしこそ人間 !?

痔は動物には発生しないことがわかっております。"ぢ" もち犬や "ぢ" もち猫は存在しないそうです。人間には "ぢ" 主様が多いようですがどうしてなのでしょうか。第一の原因は「直立歩行」です。元来四足動物であった人間が直立歩行によって肛門が心臓より低い位置になったため、肛門の血液の戻りが悪く血液が滞る(うっ滞)ためとする説です。なんと紀元前にヒポクラテスが提唱した説で最近まで最も有力でした。1975年、トンプソンの提唱したのが直腸粘膜のゆるみが原因とする説です。すなわち「人間はトイレでウンチをする」ことから、ウンチをしたいときにすぐにできない(動物に我慢なし!)ため便秘になり直腸に負担をかけ直腸がゆるみ痔を発生させるというものです。


★妊娠中はなぜ痔になりやすいの ?

妊娠すると体内の女性ホルモンの量が増加します。この女性ホルモンがまず便秘の原因となります。さらに妊娠後期になると子宮が大きくなり、おなかの中で肛門から心臓に血液を返すための血管(下大静脈といいます)を圧迫し骨盤内(殿部)のうっ血をもたらします。また、子宮によるおなかの中の腸の圧迫によって便秘傾向に拍車をかけます。これらのいろいろな原因が肛門部の痔核の発生、悪化、ほかに固い便による裂肛をきたすことがあります。


★出産および産後の痔

妊娠末期になると肛門周囲のうっ血はますますひどくなり、ときには肛門全体が腫れることもあります。出産の際には、腹圧がかかりますますひどくなることがあります。しかし、産後1〜2週間もすれば次第に腫れもひき、痛みも軽くなってきます。従って、手術しないで済むことがほとんどです。


★妊娠中または産後の痔はどうやって治すのですか ?

すべての痔の治療の基本は保存療法(食事療法や排便習慣、飲み薬やつけぐすり)です。しかし、どうしても手術が必要な場合、痛みがどうしてもとれない場合、妊娠5ヶ月〜8ヶ月の安定期に産婦人科の先生と協議しながら手術をする場合があります。この場合、胎児への影響のないとわかっているもの(例えば漢方薬など)を用います。もちろん、出産後であれば授乳に影響ないように薬を選んでいきます。


【参考文献】
「痔を治す大全科」(法研社)高野正博、宗村忠信、宗村由紀ほか
「にほうジャーナル連載記事 ドクターちゅうとゆきの大腸肛門病フルコース」
 (にほうジャーナル社)宗村忠信、宗村由紀ほか




秋号
『ママの痔と大腸ポリープ』

★トイレで出血 ! どうしよう ?

「排便後、便器が真っ赤になっていた」、「紙に血がついていた」、「便に血が混じっていた」なんて経験はおありですか? 肛門から出血することを「下血」と言います。「でもあんまり他人に見せたくないし…」と不安がつきまといながらも、そのうちトイレでの出血に慣れると、「自分は痔が悪いから…」と目をつぶってしまいがち。怖い病気のこともあります。他人事のようですが、珍しい話ではありません。


★"赤い血は痔茶色の血は癌 !?" 下血の原因は何 ?

下血の原因として最も頻度の高いものは、やはり痔の三大疾患のうちの痔核(イボ痔)、裂肛(切れ痔)で、その出血は出口に近いため真っ赤な色をしています。肛門に近い直腸癌や直腸炎でも同じです。大腸の病気で下血の原因となるものは、直腸炎、出血性腸炎、虚血性腸炎(きょけつせいちょうえん)、大腸憩室炎(だいちょうけいしつえん)、大腸ポリープ、比較的若い人に多いのが、潰瘍性大腸炎(かいようせいだいちょうえん)などで、そして最も怖いのは大腸癌です。大腸からの出血の場合は腸液の影響で、出血部位が上部(口側)になるほど真っ赤な色から次第に茶色(褐色)を帯びてきます。ちなみに胃潰瘍(いかいよう)などの上部からの出血は胃酸のためタール便といって黒色です。下血の色は、病気の場所によって赤い時もあれば茶色の時もあるということです。とにかく下血があれば大腸肛門の精密検査が必要で、専門医を受診して必ず大腸の検査を受けましょう。勿論、肛門の診察は欠かせません。


★大腸ポリープとは ?

大腸粘膜(なかの皮のこと)に発生しているイボ:隆起した病変(時にへこんでいるものも含めます)の総称をいって、原因は様々で、癌化する可能性があるものや出血しやすいものは治療の適応です。


★最近、大腸ポリープや大腸がんが増えているといわれていますが… ?

大きな原因のひとつが食生活と考えられています。とくに、日本では食生活の欧米化、すなわち高脂肪食化にともなって発生が多くなっています。現在のところ、喫煙や飲酒との因果関係は認められておりません。


★大腸ポリープを切除する必要があるのでしょうか ?

大腸がんの多くは大腸ポリープ(腺腫)から発生することがわかっております。(アデノーマ・カルチノーマ・シークエンス説といいます)。従って大腸ポリープや大腸がんの予防として確たる方法がない現在のところ、大腸ポリープの切除が最大の大腸がんの予防(2次予防といいます)と考えられています。ちなみに腺腫ががんになる確率は、報告によってまちまちですが、6〜18%です。


★切除の方法は ?

ポリープの形によって、くびれのあるキノコ状のポリープにはポリペクトミー、平坦なくびれのないポリープには粘膜切除と、大きく2通りの方法があります。




★大きな大腸ポリープがあって手術が必要 ?

手術が必要か、内視鏡で切除することが可能かは、大きさは関係ありません。良性のポリープである限りほとんどの場合、内視鏡で切除することが可能です(例外もあります)。しかし、一部に悪性の細胞(すなわちがん細胞)が存
在していると判明し、かつ病変が深く(粘膜の下まで)ひろがっており内視鏡で切除しても意味がない(すなわち治らない:腸の外側のリンパ節にひろがっている可能性がある)と判断された場合、手術の適応になります。


★腹腔鏡(ふくくうきょう)下手術が必要 ?

このような大腸がんは、最近では、多くの場合、腹腔鏡で手術することが可能です。全身麻酔でお腹に穴をあけてカメラ(腹腔鏡)を挿入し手術をします。当然、リンパ節ごと大腸を切除することが可能です。


★ところで…子供にポリープが発生するのか ?

幼少期にあるものとして若年性ポリープというものがあり、4〜5才でポリープが大きくなるとともに排便時の出血をともないます。ときに切れ痔と誤診してしまうことがあります。切れ痔の治療でも改善しない出血の場合、小児用の内視鏡を使って大腸を診ます。ちなみに当院で経験した最年少齢のポリープ切除は3歳の女の子で、大きさ約2cmのポリープでした。今は、元気な小学生です。



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